ドル円は7月28日の163.91円から9月9日の153.27円まで10円以上下げたあと、10月14日には158.45円まで戻しました。値動きの大きさの割に、手がかりは3つに絞れます。日米の通貨当局が160円台を容認しない姿勢を明確にしたこと、市場が織り込む利上げが日本より米国で大きいこと、投機筋の円の持ち高が売りから買いに入れ替わったことです。このレポートでは、3つの材料を公的機関のデータで確かめ、11月中旬までのドル円の見方を示します。
この記事の要点
- 編集部の見方では、11月中旬までのドル円は155〜161円の範囲が中心です。市場が織り込む利上げの差はドル高・円安の方向を支えますが、160円を超える水準では日米の協調介入への警戒から上値が重くなると考えます。
- 2年金利と政策金利の差で見ると、市場が織り込む今後の利上げは米国が0.92%、日本が0.68%です。日本側は日銀が利上げした9月18日の前日の0.87%から縮んでおり、利上げ後に円安へ戻した動きと一致します。
- 日銀の利上げの間隔は、2025年の約11か月から、2026年6月→9月の約3か月まで短くなりました。同じ間隔なら次は12月の会合に当たり、10月30日の連続利上げは間隔が1.4か月と過去最短になるため、可能性は低いと見ています。
11月中旬までのドル円の見方:155〜161円が中心、160円より上は重い
11月中旬までのドル円は、155〜161円の範囲での推移を中心に考えます。根拠は次の3つです。
上値:160円を超えると、日米の当局が売り手として意識される
2026年の介入は、4月29日の159.79円と7月28日の163.91円のあとに行われました。財務大臣は8月3日の談話で「更なる協調介入を実施することも躊躇しない」と述べ、米財務長官も8月30日の植田日銀総裁との会談のあと、円の大幅な過小評価に言及しています。日米の当局がそろって円安の行き過ぎを問題にしている以上、160円を超える水準では買いが続きにくいと考えます。
下値:市場が織り込む利上げは、米国のほうが大きい
2年金利から政策金利を引いた差は、米国が0.92%、日本が0.68%です。今後2年ほどの利上げの織り込みは米国のほうが大きく、日銀の利上げ(6月・9月)よりFRBの利上げ観測の高まりのほうがドル円に効いています。10月28日のFOMCで利上げの姿勢が続けばこの差は縮みにくく、9月の安値(153.27円)まで下げる材料は乏しいと見ています。
持ち高:円売りの巻き戻しによる急な円高は起きにくい
9月上旬の急な円高は、投機筋が積み上げていた円の売り持ちを一気に買い戻した動きでした。10月6日時点の投機筋は6.2万枚の円の買い越しで、売り持ちはほとんど残っていません。9月上旬のような巻き戻しは起きにくい一方、買い越しの解消が進むと円安の方向に働きます。
2026年のドル円を動かした4つの局面:円売りの積み上げと当局の対応
数字は本文の局面1〜4。ECBの参照レート(中央ヨーロッパ時間14時15分ごろ)からドル円を算出。
米商品先物取引委員会(CFTC)の建玉明細のうち、シカゴ・マーカンタイル取引所の円先物の非商業部門(投機筋)の買い建玉から売り建玉を引いた値。各週の火曜日時点。
局面1(1〜7月):原油高と米金利の上昇のなかで円売りが積み上がる
中東情勢を受けてブレント原油は4月に1バレル138.21ドルまで上がり、米国の2年金利は2025年末の3.47%から6月末には4.14%まで上昇しました。ドル円は6月に160円を超え、7月28日には163.91円をつけています。投機筋の円の売り越しは3月から増え続け、7月28日には16.3万枚と2026年で最も大きくなりました。4月30日の介入は売り越しが10.2万枚の局面で行われ、ドル円は5月8日までに3.03円下げましたが、売り越しはその後さらに膨らんでいます。
局面2(7月31日):28年ぶりの日米協調介入
財務省は7月31日(米国東部時間)に、米財務省と協調して円買い介入を行いました。米国と協調した円買い介入は28年ぶりです。7月30日〜8月26日の介入額は15兆3,993億円で、ドル円は7月28日の163.91円から8月26日の159.07円まで下げました。投機筋の円の売り越しは、介入直後の8月4日には4.5万枚まで縮んでいます。
局面3(9月上旬):米財務長官の発言のあと、7円近い円高
米財務長官は8月30日、G20財務相・中央銀行総裁会議に合わせて植田総裁と会談しました。会談で米財務長官は、為替の過度な変動を避けるための金融政策のあり方を強調し、円の大幅な過小評価に対処する日本の市場面・金融政策面での措置を強く支持すると表明しました。ドル円は9月1日の160.16円から下げ始め、9月3日には1日で3.58円下落し、9日には153.27円をつけました。
この間の財務省の介入額はゼロです。値動きを大きくしたのは投機筋の持ち高の入れ替わりで、円の持ち高は9月1日の9.2万枚の売り越しから、15日には12.0万枚の買い越しに転じました。2週間で21万枚を超える入れ替わりです。
局面4(9月18日〜):日銀の利上げ後に円安へ戻る
日銀は9月18日に政策金利を1.25%に引き上げましたが、ドル円は前日から2.20円上昇しました。決定は賛成7・反対2で、反対した2人はいずれも利上げそのものに反対しています。日本の2年金利から政策金利を引いた差は、利上げ前日の0.87%から10月14日には0.68%に縮み、投機筋の円の買い越しも9月15日の12.0万枚から22日には7.2万枚に減りました。ドル円はその後、156.88〜158.86円の範囲で推移しています。
2026年に大きな円高が起きたのは、いずれも投機筋の円の売り越しが大きく積み上がった局面でした(4月は10.2万枚、7月は16.3万枚、9月初めは9.2万枚)。現在は円の買い越しで、同じ形の急な円高が起きる条件はそろっていません。CFTCの持ち高は毎週金曜日(米国東部時間15時30分)に公表されるため、売り越しが再び10万枚に近づくかどうかが、円高の起きやすさを測る目安になります。
市場が織り込む日米の利上げ:米国0.92%、日本0.68%
2年金利は今後2年ほどの政策金利の見通しを映しやすいため、政策金利との差を、市場が織り込む利上げ幅のおおまかな目安として使っています。
年初の米国の差は−0.17%で、市場はFRBの利下げを見込んでいました。原油高と物価の上振れで見方が変わり、9月16日には1.12%まで広がっています。FRBが実際に利上げした後も0.9%前後を保っており、追加の利上げが織り込まれた状態です。
日本の差は、年初の0.44%から日銀の利上げ前日の9月17日には0.87%まで広がりましたが、利上げ後は縮み、10月14日は0.68%です。利上げは実施されたものの、次の利上げまでの間隔は空くと市場が見直したことになり、9月18日以降に円安へ戻した動きと重なります。
ドル円の方向は、日米の政策金利の差よりも、「これから先の利上げの織り込み」の差で動いています。10月28日のFOMCと30日の日銀会合の後は、2本の線のどちらが動くかを見ると、円安と円高のどちらに進みやすいかを判断できます。日米の差(現在0.24%)が縮めば円高、広がれば円安の方向です。
日銀の利上げの間隔と政策委員の意見:次は12月の会合が目安
2024年3月19日、7月31日、2025年1月24日、12月19日、2026年6月16日、9月18日の決定日をもとに計算。
日銀は2024年3月から2026年9月までに6回利上げしました。間隔は2025年の10.8か月が最も長く、直近の6月→9月は3.1か月と最も短くなっています。9月の会合の「主な意見」にも、6月から3か月後の利上げで間隔が短くなったのは、経済が想定より底堅かったためとする意見があります。
同じ3か月の間隔なら、次の利上げは12月17〜18日の会合に当たります。10月29〜30日の会合で利上げすると間隔は1.4か月となり、これまでで最も短い間隔になります。
政策委員の意見は、利上げを急ぐ側と慎重な側に分かれている
9月の会合の「主な意見」では、金融政策運営について、物価の上振れの兆しがあれば利上げのペースを速めざるを得ないとする意見や、政策金利を早めにおおよそのゴールに近づけておくことが望ましいとする意見がありました。一方で、据え置くべきだったとする意見、このタイミングでの利上げは適切ではないとする意見、慌てる必要はないとする意見も並んでいます。政府側の出席者も、利上げの累積的な影響を十分に点検するよう求めました。
委員の意見が割れているなかで、間隔が過去最短となる10月の連続利上げの可能性は低いと見ています。10月30日の会合で注目したいのは利上げの有無よりも、展望レポートの物価見通しの引き上げ幅と、12月の利上げを示唆する表現があるかどうかです。示唆があれば日本の2年金利の織り込みが戻り、円高の材料になります。
日米協調介入と2026年の介入額:暦年で過去最大
2022年以降の円買い介入を、実施時期の近いものでまとめて合計。2026年7〜8月は7月30日〜8月26日の月次の合計額。
| 実施日・期間 | 介入額 | ドル円(参照レート) |
|---|---|---|
| 4月30日 | 6兆2,787億円 | 4月29日 159.79円 → 5月8日 156.76円 |
| 5月4日 | 7,802億円 | 同上 |
| 5月6日 | 4兆6,759億円 | 同上 |
| 7月30日〜8月26日 (7月31日に日米協調) |
15兆3,993億円 | 7月28日 163.91円 → 8月26日 159.07円 |
| 8月27日〜9月28日 | 0円 | 9月1日 160.16円 → 9月9日 153.27円 |
2026年の介入額は合計27兆1,342億円です。1991年4月からの統計では、円売り・円買いを通じて暦年で最大で、これまで最大だった2003年の円売り介入(20兆4,250億円)を上回ります。円買い介入に限ると、2024年の15兆3,233億円の1.8倍です。
2022年と2024年の円買い介入は日本単独でしたが、7月は米国が加わりました。円安を抑える姿勢が日本だけのものではなくなった点が、これまでの介入との大きな違いです。次の介入額の公表は10月30日(金)19時で、9月29日〜10月28日に介入があったかどうかがわかります。7月30日〜8月26日の実施日ごとの金額は、11月2〜9日に公表されます。
原油高とドル円:直接ではなく、利上げの織り込みを通じて効いている
米エネルギー情報局の日次の価格(FRED経由)。最新は10月6日。
ブレント原油は2025年末の61.35ドルから、4月7日に138.21ドルまで上がりました。7月には70ドルを下回る場面もありましたが、9月以降は再び上昇し、10月6日は125.44ドルと年初の約2倍です。日銀の9月の「主な意見」には、原油価格の高止まりも念頭に物価見通しを検討する必要があるとする意見があり、FRBも9月の声明でインフレ率がなお高いとしています。
2026年のドル円と原油価格の20営業日ごとの変化の相関は、ほぼゼロです。原油が上がった日にドル円が上がるという関係はなく、原油高は日米の物価と利上げの織り込みを通じてドル円に効いています。日本の2年金利が上がった局面では円高に振れており(20営業日ごとの変化の相関は−0.46)、原油高で日銀の利上げ観測が強まる局面は円高の材料にもなります。
原油価格のニュースだけでドル円の方向を判断するのは難しく、FRBと日銀のどちらがより強く反応するかを見る必要があります。10月30日の展望レポートで、原油高を理由に物価見通しがどこまで引き上げられるかが、日銀の次の利上げの時期を測る材料になります。
10月末の日米会合の結果別に見たドル円:4つの組み合わせ
10月28日のFOMCと30日の日銀会合の結果を組み合わせ、それぞれの場合に想定するドル円の動きを整理しました。1〜4月の関係(2年金利差が0.1%動くとドル円は約0.95円動く)を目安にしています。売買を勧めるものではなく、値動きを見るときの目安です。
| 日銀が10月は据え置き (編集部の想定) |
日銀が10月に連続利上げ | |
|---|---|---|
| FOMCが利上げ | 円安寄り 米国の織り込みが維持され、日米の差が広がる。160円に近づくが、介入警戒で161円前後が上値の目安 |
中心レンジ内 日米の利上げが打ち消し合う。155〜161円の範囲にとどまりやすい |
| FOMCが据え置き (市場の織り込みが後退) |
中心レンジ内 米国の織り込みが縮み、157円前後まで下げる場面がある |
円高寄り 日米の差が大きく縮む。155円を下回り、9月9日の153.27円が次の目安 |
どの組み合わせでも、10月30日は日銀の決定と財務省の介入額の公表(19時)が同じ日に重なります。公表で10月の介入が明らかになった場合は、表の想定より円高の方向に振れると考えます。
10月下旬〜11月の日程:ドル円に関わる公的な発表
| 日時 | 内容 | 見るポイント |
|---|---|---|
| 毎週土曜の早朝 | CFTC 建玉明細(火曜日時点) | 円の売り越しが再び積み上がっていないか |
| 10月29日(木)午前3時 | FOMCの結果と声明(10月27〜28日開催) | 追加の利上げの有無 |
| 10月30日(金)会合終了後 | 日銀会合の決定、展望レポート(基本的見解) | 物価見通しの引き上げ幅と、12月を示唆する表現 |
| 10月30日(金)19:00 | 財務省 介入額の月次公表(9月29日〜10月28日) | 10月の介入の有無 |
| 11月2日〜9日 | 財務省 介入の日次内訳(7〜9月) | 7月30日〜8月26日の介入の実施日と金額 |
| 11月5日(木)8:50 | 日銀 9月会合の議事要旨 | 利上げに反対した2人の論点 |
| 11月10日(火) | 日銀 10月会合の「主な意見」 | 12月の利上げへの意見の広がり |
データと計算方法
- ドル円は、欧州中央銀行(ECB)のユーロ参照レートの円とドルの値から算出しています(ドル円=ユーロ円÷ユーロドル)。参照レートは中央ヨーロッパ時間14時15分ごろの値で、取引時間中の高値・安値は含みません。
- 2年金利と政策金利の差は、米国は2年国債利回り(米財務省、FRED経由)からFF金利の誘導目標の中央値、日本は2年国債の金利(財務省)から無担保コールレートの誘導目標を引いた値です。期間のプレミアムなども含むため、利上げの織り込みの正確な値ではなく目安として使っています。
- 相関係数とドル円の感応度(2年金利差0.1%あたり約0.95円)は、20営業日前からの変化どうしで計算しています。水準どうしの相関は、同じ方向に動く傾向があるだけで高く出やすいためです。相関は因果関係を示すものではありません。
- 金利差と原油価格からドル円の理論値を推計する方法も検討しましたが、2025年〜2026年4月のデータでは説明力が低く(決定係数0.4前後)、金利差の係数の符号も想定と逆になったため、このレポートでは使っていません。
- 投機筋の持ち高は、CFTCの建玉明細(Legacy、先物のみ)の非商業部門の買い建玉から売り建玉を引いた値です。
- 介入額は財務省「外国為替平衡操作の実施状況」の値です。7月31日の介入が米国との協調であることは、8月3日の財務大臣談話によります。
出典
- 財務省「外国為替平衡操作の実施状況」(月次・四半期・過去の介入実績全データ) 2026年10月15日確認
- 財務省「片山財務大臣談話」(2026年8月3日)、片山財務大臣記者会見(8月4日・9月18日) 2026年10月15日確認
- 米財務省「Secretary Bessent’s Meeting with Bank of Japan Governor Kazuo Ueda」(2026年8月30日) 2026年10月15日確認
- 日本銀行「金融市場調節方針の変更について」(2026年9月18日)、同(6月16日)、2025年12月19日・1月24日、2024年7月31日・3月19日の公表文 2026年10月15日確認
- 日本銀行「金融政策決定会合における主な意見(2026年9月17、18日開催分)」 2026年10月15日確認
- 日本銀行「金融政策決定会合の開催日程」 2026年10月15日確認
- FRB「Federal Reserve issues FOMC statement」(2026年9月16日)、FOMCの日程 2026年10月15日確認
- 米商品先物取引委員会「Commitments of Traders」(円先物、Legacy Futures Only) 2026年10月15日確認
- 財務省「国債金利情報」(2年) 2026年10月15日確認
- セントルイス連銀 FRED(DGS2・DCOILBRENTEU・DFEDTARU・DFEDTARL) 2026年10月15日確認
- 欧州中央銀行「Euro foreign exchange reference rates」 2026年10月15日確認
本レポートは、公的機関が公表したデータをもとにした情報提供を目的としており、特定の金融商品の売買や取引を勧めるものではありません。「編集部の見方」は執筆時点の分析で、将来の値動きを保証するものではありません。記載の数値は2026年10月14日時点のデータに基づきます。投資の最終判断はご自身の責任で行ってください。内容に誤りがあった場合は、訂正した箇所と日付を本ページに記載します。
