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【専修大学 小川健 教授】海洋の未来を考える|水産物貿易における比較優位、保護主義、自由貿易、および気候変動の影響

専修大学 小川健 教授
小川健教授
取材にご協力頂いた方

専修大学 経済学部 専任教員(教授)
小川健 教授
略歴
名古屋大学経済学研究科社会経済システム専攻博士課程修了(2011.3)。経済産業研究所で非常勤リサーチ・アシスタント、広島修道大学経済科学部にて助教(2012.4~)、専修大学経済学部国際経済学科で講師(2015.4~)・准教授(2017.4~)を経て、2023(令和5)年4月より現職に至る。
経済学の分野において幅広い知識と経験を有し、学会での受賞経験も有す(日本地域学会 2009年大会における最優秀発表賞、2015年度奨励賞)。

目次

水産物貿易における比較優位の原則はどのように適用されますか?また、この原則が持続可能な漁業にどのように影響を与える可能性がありますか?

水産物貿易における比較優位の原則はどのように適用されますか?また、この原則が持続可能な漁業にどのように影響を与える可能性がありますか?

「小川先生による解説」

水産物貿易特有の部分を見る前にまずは「比較優位の原則」の一般論を押さえておきましょう。

比較優位の原則には技術の差を基にしたリカード型,資本・労働・土地などの生産要素の国内にある量の比率を基にしたヘクシャー=オリーン型の2種類の比較優位の原則が有ります。

どちらもその大原則は「他の産業と比較して(相対的に)優れた財・産業が他の国よりある」財・産業のことを「比較優位がある」という言い方をし,その財を輸出するための生産体制を組みます。

「相対的に」技術的に優れている、(技術面では大差が無くても)その生産に鍵になる生産要素を「相対的に」優れている,などの場合があります。

ここで大事なのは「絶対的に」優れている,という部分はあまり重要ではなく、他の国と比べるとうちの国がこの財生産・産業を担うのとあちらの財生産・産業を担うのとでは相対的にはという視点が大事になります。

水産物貿易で比較優位の原則を適用する上で重要研究の1つにBrander and Taylor (1998, Journal of International Economics)などを基にした通称「ブランダー=テイラー・モデル」があります。⁽¹

幾つかの段階に分けて説明します。この研究は水産物貿易を必ずしも念頭にしているものでは無かったのですが,水産物貿易に読み替えられるとして多くの研究が登場しました。

まず,水産資源は獲り過ぎると減るが獲らないと(或る程度は,の注釈を付けますが)増えてくる傾向にある「再生可能資源」という特徴を持ち,水産資源は漁獲量によって増減します。

水産・漁業の経済にも知見が発達していて,そのうちの1つ「クラーク・モデル」ではシェーファー型という長期的な漁獲量に関する推計のための関数形が知られていて,(漁獲技術)×(資源量)×(エフォート)という形をしています。

ここでいうエフォート(effort)は獲りに行く船の量など漁業にかける努力量などを表していて,(元々は違うのですがブランダー=テイラー・モデルでは)漁獲に向かう労働投入量(粗く言えば獲りに行く人数)で表します。

ここで大事なのは漁業(天然の水産漁獲)では資源量が減ると獲れる量が減ってしまうという傾向です。お魚の掴み取りとかを思い出してもらうと良いのですが,あちこちにお魚がいる(水産資源が豊富な)状況ではそんなに労力をかけなくてもお魚は獲れます。

しかし,お魚の量が減ってくると,或る程度労力をかけないと獲れなくなってくる,つまり獲り難くなってくる,という特性です。

ブランダー=テイラー・モデルではこの水産経済のクラーク・モデルを貿易の比較優位の理論に組み込んで水産物貿易など「再生可能資源の貿易」を説明する構造になっています。

国内河川や池・沼・湖,領海内など「各国保有の水産資源」を水産資源財の輸出国側・輸入国側共に同じような魚種で持っていて,リカードの比較優位では変わることを想定していなかった「技術水準」の部分が「(漁獲技術)×(資源量)」つまり資源の量が(水産資源財を輸出品にするなど)獲り過ぎで減るとその分だけ獲り難くなってしまうため,比較優位の原則で説明していた貿易での恩恵を受け難くなる,という特性が有ります。

元々のブランダー=テイラー・モデルは先のBrander and Taylor(1998)を含めて3-4本の論文から構成されているのですが,その大きな特徴として水産資源財の輸入国側は輸入できるため水産資源を無理に獲りに行かなくても良くなった結果,貿易の利益・恩恵と資源量回復による獲り易さとの恩恵をWで受けらました。

対して水産資源財の輸出国側では余程水産資源財の価格が高くならない限りは,資源量減少による影響が貿易の利益・恩恵を凌駕してしまうために貿易で損をしてしまう,ということが知られています。

それは例えば水産業以外の産業が普通に成立する程度に水産資源財の価格上昇が達しない場合には貿易で損をしてしまうことが確定する位に大きなことです。

一般にはその原因としては水産資源の管理をせずに自由に参入させたまま(国内におけるオープン・アクセスと言い,知識のオープン・アクセスと違って水産のオープン・アクセスは獲り過ぎを招くので良くない事が知られています)水産資源財を輸出するから,と言われています。

そのため,水産資源に関しては自由参入ではなくしっかりとした資源管理を入れてやっていきましょう,ということが知られています。

ちなみにブランダー=テイラー・モデルのオリジナルの知見の中にもBrander and Taylor(1997, Resource and Environmental Economics)のように,しっかり管理できていれば輸出国側でも貿易の恩恵を受けられる,ということが知られていて,他にも数多くの研究が登場しています。⁽²

一応私もOgawa(2014, SSRN Working Paper)⁽³やOgawa(2017, 著書内収録論文)⁽⁴で,輸出メインの国と輸入メインの国で魚種が違い,消費者が異なる財と認識してその選好が1国内でも(「私国産魚が好き」「私輸入魚の方が好み」とか)消費者によってずれるようになったら,輸出メインの国でも輸入魚を食べる人を中心に貿易で恩恵は得られるが,輸出メインの国の資源量は減っているのでそこで国産魚(輸出メインの国のお魚)を食べ続ける人を中心に貿易で損失を被る人は残ることを示しています。

そしてその打開策をとして(現在だと補助的に使われている)網の目の粗さやエンジンの馬力,船や冷蔵庫の大きさ,漁法など「技術的な部分に」獲り過ぎないような制約をかけてしまう「技術的規制」例えば巻き網や底引き網のような一網打尽の漁法は禁止とかのようなことで「資源量の貿易による減少(変動)」は食い止められるが,貿易での損失は残り,やはり水揚げ量の規制など本格的な管理を入れなければならない,という(暫定的な)結果は出しています。

持続可能性に与える影響,という部分でこの「ブランダー=テイラー・モデル」の知見と対応させて忘れてはならないのが1995(平成7)年の国連海洋法条約の制定における排他的経済水域(EEZ)の設定です。

基本的に1国内で管理ができれば,(日本だと漁協の力がそこそこ強いので水産庁のような国単位で管理,とは必ずしもなっていない部分もあるのですが)その国がしっかり水産資源を管理すれば良い,という事になり,世界の数多くの海が陸地から200海里という設定を中心に優先的に資源管理ができる,という形に変わりました。

日本だとこの200海里の設定は「世界各地の海から締め出されて遠洋漁業が行き難くなった」と「安全保障上大事だ」の2点で語られることが多いのですが,この200海里の排他的経済水域(EEZ)の設定によって各国政府が十分に(資源管理という観点で)機能していれば,水産資源の問題は「国際的に共有された資源」へとかなり絞られる,という事になります。

日本でも2018(平成30)年の漁業法変更(約70年ぶり)では(色々な反対意見も多かったのですが)資源管理という意味ではかなり重要な枠組みが色々なお魚に広がるなど持続可能性という観点では重要な役割を果たしています。大昔には割と簡単なシミュレーションで2048年には世界中の水産資源が枯渇するとかの指摘もあったのですが⁽⁵,現在ではしっかり管理をすれば対処できる⁽⁶,という見解が一般的です。

国際的に共有された水産資源とは例えば鮪鰹類や一部の鰻などのように回遊性の高い魚種(お魚は人間が引いた国境なんて守ってくれませんから),公海のようにどの国の船でも入って操業できてしまう海域,そして近隣諸国と領海・排他的経済水域(EEZ)に関して共通認識を持てていないところ,などが挙げられます。

これらのものは1つの所だけが管理をしようとしても他の動き次第で無駄になる,ないしかえって悪くなる,などのことがあり,国際的な(国家間の合意による)資源管理が求められ,例えば鮪鰹類だけでそうした管理団体(RFMOと言います)は(日本周辺だと西太平洋のWCPFCなど)世界に5つあるのですが,必ずしもうまく行っているとは限らないのも実情です。

他にも日本でも鰻としてよく食べられている魚種の1つにニホンウナギという魚種があるのですが,2014(平成26)年にIUCN(国際自然保護連合)によって絶滅危惧種を示すレッドリストに掲載されたニホンウナギは日本でも中国大陸でも同じ産卵地のものが流れてきて獲っていることが知られています。

単純に考えれば絶滅危惧種を土用の丑の日とかに食べているということになるので,結構危ないことをしているとも言える訳ですが,国家間の資源管理の枠組みは必ずしもうまく作れていない/機能していないのが実情ですし,その責任の一旦は土用の丑の日に鰻を食べる我々にも有ります。

あと,日本だと周辺諸国と共通認識を持てていない例では竹島・独島(ドクト,と言い,竹島の韓国読みと思って下さい),尖閣諸島(特に魚釣島),北方領土,あとは沖ノ鳥島のそれぞれの各周辺の海域などが該当します。⁽⁷実際に北方領土は帰属としては日ロで争いロシアが実効支配している訳ですが,周辺の海域では毎年操業における交渉が行われていて,この交渉結果に違反すると本当に拿捕されます。

沖ノ鳥島が何で?と思われるかもしれませんが,ギリギリ高潮時にも水面から出ている場所がある沖ノ鳥島は単独で孤立していて日本の排他的経済水域(EEZ)を著しく広げている側面がある一方で,事実上人の住めない沖ノ鳥島では排他的経済水域(EEZ)を持つ条件を満たしているかどうか,という観点では,「人間の居住又は独自の経済的生活を維持することのできない岩は、排他的経済水域又は大陸棚を有しない」という条件に抵触する可能性があるから,という部分があるからです。⁽⁸

国際的に共有された水産資源の入った貿易だと一方の国が獲り過ぎたとき,その影響が他の国にも来るのでその影響を考えないといけないことから,(輸入国側にも貿易で損失が出る可能性等)かなり知見が大きく変わる可能性が知られています。

Rus(2012, Environmental and Resource Economics)や南山大学の寳多先生によるTakarada et al.(2013, Review of International Economics)等をはじめ色々な研究が有ります。余談をいうとTakarada et al.(2013, Review of International Economics)では私も少し携わりました。

水産物の国際価格と国内市場への影響について、為替レートの変動が水産物市場にどのような効果をもたらすかについて教えてください。

水産物の国際価格と国内市場への影響について、為替レートの変動が水産物市場にどのような効果をもたらすかについて教えてください。

「小川先生による解説」

まず一般的に,為替レートが変わると(輸入ものがある)財の市場にどんな変化が起きるか,ということを確認してからにしましょう。

或る国の通貨が(他の国の通貨・貨幣等と比べて)安くなることを減価と言い,日本では日本円が安くなる「円安」が該当します。2022(令和4)年には名目水準でも為替レートが(一時期20%以上)円安になった影響もあり、「物価が高くなった」と感じている人は少なくないかと思います。

減価(円安)は一般に輸入する財の仕入れ値が上がり,輸入し難くなります。日本は水産物については(一部輸出しているものも0ではないのですが)一般には輸入メインの国ですし,水産物に限らず(主食を意味する)食糧(小麦など)・(主食以外を意味する)食料や(石油などの)エネルギーを中心に多くが輸入されているため,輸入品(専門用語で「舶来品」と言います)の価格がまず「一般的には」上がります。

次に輸入しているものを基に作っているものの値段も「一般には」上がります。一般には,と書いたのは,日本だと企業物価が上がっても企業側が涙をのんで消費者に対する価格を上げなかった事があるからです。

実は物価などの影響まで含めて考えた「実質実効為替レート」という考え方でいえば1995(平成7)年頃をピークに中期的な減価(円安)方向に進んでいて,名目水準で急激な円安が進む前の2021(令和3)年の段階でも1970年代並の歴史的な円安であったことが指摘されています。⁽⁹

輸入物の価格が上がるという事は,輸入物と競合する国内生産のものの価格も(ライバルが勝手に手を緩めてくれたと考えれば)そこまで安く売る必要は無くなりますから値上がりします。

こう書くと減価(円安)は1から10まで悪者のように見える訳ですが,減価(円安)になると同じ外貨の価格で売れたものも日本円に換算すれば増えるため,輸出はし易くなりインバウンド(外国人旅行客)も見込めるようになる,という部分があります。

これは日本だけの話ではなく,1992(平成4)年のUK(連合王国イギリス)を例に取ると,当時はポンド危機と呼ばれる「予定外の減価(ポンド安)」が起きたのですが,その結果「英国病」とまで言われた構造的な不況を輸出し易くなって脱した,という話がある位です。

そのため,昔(2021[令和3]年くらいまで)は「日本は多少円安の方が良いんだ」という事が本当に言われていました⁽¹⁰。2022(令和4)年になって名目水準でもがっつり減価(円安)になり,30年近く上がらなかった日本の物価が上がり出したのにお給料が追い付かなくなって,あまり言われなくなりましたが。

但しこうして円安が1年以上続いた結果,日本は製造業の方が円安で輸出し易くなったので非製造業より稼げるようになってきた,とも言われていて⁽¹¹,一時期言われていた「製造業は国外に出てしまっていて輸出で稼ぐなんてできない」という形では必ずしもなくなって来てはいると言われています。

この逆が増価(円高)と言われる状況であり,名目水準だけで言えば2010(平成22)年前後が歴史的な円高だったと言われています。この前後だとUS$1.-≒77円とかの時期もありましたから,2023(令和5)年11月現在がおよそUS$1.-≒150円であることを思うと,この時期は相当な(USドル安⇒)円高ということが言えます。

増価(円高)だと先ほどの逆の事になりますので,輸入するものの価格は安くなります。実際に私は今でも講義資料で使いますが,2011(平成23)年当時だとビックカメラなどを初め各地(輸入した財を取り扱っているところ)で「円高還元セール」が行われていました。⁽¹²この当時は増価(円高)で輸出が物凄くし難かったので,この時期に日本を捨てて外国に工場を移した企業もあると聞きます。⁽¹³

ここに水産物市場だと,という部分を入れます。まず円安の場合から見ていきましょう。日本は(以前ほどではなくなりましたが)基本的には水産物の輸入大国の1つなので,輸入する水産物の価格は上がっていくことになります。

ところが,諸外国の中には水産物が健康志向その他や所得増加の影響で高級食材化している地域もあるのに対し,日本ではお肉などに代替されて水産物の消費量は落ち行く傾向にあると言われています。

そのため以前だったらこの位の価格で買えたから,という想定でいると買えず,日本だと「そこまで価格を上げてしまうとあまり買われないからな…」と国際市場の競りでもあまり高価格を提示できず,これまであまり買ってこなかった国に競り負けて競り落とせなくなってしまう「買い負け」という現象に繋がります。⁽¹⁴

これは単に日本の消費者がお魚をあまり買わなくなって来ているというだけなので,それ自体を騒いでも仕方のない話なのですが。

次に減価(円安)で輸入する油(船の燃料)の価格も上がります。そうすると,日本で漁をする人にとっても,船の燃料というコストが上がり過ぎると漁に出られない,という事になります。

燃料代の上がり幅が出られる範囲であったとしても燃料を節約しますから,あまり頻繁に漁港と漁場を行き来するという事は出来なくなってしまいます。そうすると1日に出てくる国産水産物の供給も減ってきますので,輸入水産物の価格が上がるため無理して低価格で売る必要のなくなった国産水産物の価格も原理的には上がってくることにはなります。

ところが日本だとお魚は(江戸時代とかとは違い)生活必需品とはいえず,お魚の価格が上がるならお魚をやめてお肉にしよう,とますますお魚・水産物の消費量は経ることになります。また,頻繁に行き来できない分だけしっかり〆ないと鮮度が落ちる可能性があり,鮮度を大事にする国内市場において日本のお魚離れに拍車がかかります。

本来,円安なら日本から水産物を輸出すれば良いではないか,と思いたくもなります。しかし,昔は水産物の市場でも国内市場がなまじかし大きかったために,外に輸出するための準備があまりし切れていない所が少なくありません。

例えばEU各国に輸出しようとすれば食品衛生に関するHACCPという基準をクリアしていないといけないのですが,日本でHACCPが義務付けられたのはつい最近であり,完全対応とは行かない部分も少なくありません。⁽¹⁵また,日本の漁業は追跡可能性(traceability)が十分整備されている事例があまり多くなく,その意味で責任ある漁業による水産物とは見做し難い側面があります。一部ではその段階で門前払いをされます。

日本は漁業については決して野放図ではなく漁協内で伝統的な管理をしている事例も少なくないのですが⁽¹⁶,それが本当に科学的な知見に基づいているかといえば疑わしいものもあり,たまたま上手く行っているだけ,という事例も少なくないため,諸外国に資源管理を十分に行っていると示す手段を有していない事例が多いのです。

水産資源管理を十分に行えていると第3者に認められた水産物の証を水産エコラベルと言いますが,こういうものを用意できないとそれだけ高価格帯にはなりません。

国際的に通用する水産エコラベルである(天然漁獲の)MSCや(水産養殖の)ASCなどについて(増えてはきましたが)日本での取得事例はまだ多いとは言えず,あるのはほぼ日本の水産の事例で占められているMEL位で,(一応MELも水産エコラベルとしてまともになったのですが⁽¹⁷)外国では知名度として劣るため,輸出を大々的にとは(きっちり対応してきた所を除けば)難しいものがあります。

円安は輸出のチャンスではあるのですが,日本ではそもそも国内市場で鮮度や価格,天然かどうかなどは注目されてきても「水産資源の持続可能性に配慮したとり方をしてきたか」という視点ではあまり注目されてこず,水産エコラベルをせっかくコストかけて取っても日本の国内市場では単価の上積みには繋がらない,とする研究が(2010年代前半等を見ると)多いこともあり⁽¹⁸,日本の国内市場で水産エコラベルのマークの付いた商品というのはかなり注意してみないと見つかりません(一応イオンとかには或る程度はあるんですけれどもね⁽¹⁹)。

MSCやASCって何?という消費者も少なくなく,そうした「持続可能性への配慮」で価格が上がることに必ずしも日本の消費者は慣れていない人も少なくないため,そうした国内市場を相手にしていた所だと水産エコラベルを取る,というのは輸出をしようとして初めて言われること,で取得費用やその審査期間などを考えると諦める,という事になってしまいます。⁽²⁰

増価(円高)だとその逆で,輸入がし易くなりますから,国内市場においても輸入水産物がこれまで以上に多く,そして安く並ぶようになります。まず国内の漁業者はそれだけ苦しい立場に置かれ,撤退する形になっていきます。日本にせっかく出ていた水産物輸出の芽も増価(円高)なら刈り取られてしまう事でしょう。安くないと買わない,という人も手を出してくるようになりますから,それだけ消費量も増え,漁獲圧も高くなります。

参考までにこれが余りにも長く続くと或る意味巨大な輸入市場として日本市場が大口開けて待っているようなものとなるので,それだけ水産資源を食い潰すような形になってしまいます。1つ獲れなくなると類似のものは無いか,と世界中を探すような傾向と合わせると,類似魚種まで含めて資源管理の危機に陥りかねない部分が出て来ます。⁽²¹

水産物貿易における保護主義的な貿易政策と自由貿易政策が海洋資源の保護と持続可能性に与える影響についての見解を教えてください。

水産物貿易における保護主義的な貿易政策と自由貿易政策が海洋資源の保護と持続可能性に与える影響についての見解を教えてください。

「小川先生による解説」

小川健教授

まず押さえておくべきは,水産資源は自由参入では獲り過ぎに繋がるので適切な管理が必要であるものの,その基本的な管理方法は貿易制限とは違う手法を取られることが多いという点になります。

本来は貿易を自由に行う事に伴う恩恵を考えて,できるだけ貿易は自由にしつつ,そうすべきではない例外やその中で起きた紛争解決について取り扱っていく必要性からWTO(世界貿易機関)の設立に繋がった面もあります。

水産資源の管理についてはロイヤリティ(管理料・遊漁料など)を取る方法等もあるのですが,基本的には船の数を減らす「減船」などの投入量管理(input control),網の目の粗さやエンジンの馬力・船や冷蔵庫の大きさ・漁法など技術的な短期的効率性を犠牲にして管理を行う技術的規制(technical control),港で水揚げ量などを制限する産出量管理(output control)などが知られているのですが,監視可能性などを考えると産出量管理しか現実的には十分な機能をさせられず,技術的規制など他の方法は(ポーズでなければ)補助的に使う,という形を取るのが管理を機能させる上での実情である,という部分がございます。

まず,海洋資源の持続可能性を妨げる漁業: IUU(illegal, unregulated, unreported)漁業に対して貿易制限・取引制限による管理方法を取ることはあります。

各船は「どこの国の船か」を決めておく「船籍」という取り決めがあるのですが,別にどの国の船と設定されていても支障はないので,あまり厳しいことを言われない国に便宜的に置いておくやり方を取ることがあります。⁽²²

パナマなど租税回避地として指摘される国にそうした事例が多いと指摘されてきました。そうすると乱獲していても放置され,資源量が少なくなっているのに獲り続けるときに「管理をすべき船の所属国が何も対応しようとしないので」IUU漁業が放置される事があります。

国をこえては法的な追及が難しい面があります。せめてもの対抗措置としてIUU漁業をやっている船を特定して,その船からの貿易取引は拒否をするというやり方が実際にあります。大きな市場を抱える国・高く売れる国が結託して拒否をして売り先に困ればIUU漁業もし難くなる,というやり方です。この方法については,抜け穴があったら機能しなくなる問題点が指摘されています。

そのため,自由貿易も「水産資源の利用に関して管理がザルなら」国際的には水産資源の枯渇に繋がる面も或る程度はあると言えるでしょう。

獲りに行ける場所が限られている種類のオープン・アクセスの場合にはそのうち(固定費用を除いた短期的な利潤に相当するレントが赤字になって)参入が止まり撤退していくのですが,これだけ世界が広いと1つ獲れなくなれば類似のものにどんどん乗り換えて次々と絶滅危機に追い込んでは見捨てる,という動きに繋がっていくからです。

実際にウナギの一部にはそういうことを狙われてIUCNのレッドリストに(絶滅危惧種扱いに),という議論が出たことがあるはずです。

次に関税を利用した資源の持続可能性への影響については,例えば共有資源でTakarada et al.(2013, Review of International Economics)という先に触れた研究では少し触れられています。

この研究では(回遊魚など)共有された水産資源の資源財に対しあまり選好・消費割合が高くなく,輸出国だけが獲りに行くものの輸出国にも漁業以外の産業が健在という資源財価格があまり高くならない場合において,輸出国側は貿易での損失の影響が確実に発生します。

輸入国側でも(内的増加率という)資源の回復力があまり思わしくない場合には貿易で損をする可能性があることが理論的に示されています(他の場合には貿易で恩恵を受ける事例なども分析されています)。

そこで輸入国側がこの共有資源の資源財に対して少し輸入関税を導入することで,関税によって少し輸出しにくくなった共有水産資源の資源財を獲りに行く量を少し減らすので,共有資源量が少し回復して獲り易くなるため,輸出国側は労働の節約に繋がる(他のお仕事に人を回せるようになる)ため得をし,輸入国側は少し入れた輸入関税を活用できるので少し基より得をする,ということが知られています。

ただ,一般論でいえば貿易の制限というのは「資源に対する管理をしっかりできるなら」 寧ろしない方が望ましくなる特性が有ります。というのも,お魚など水産資源財を獲りに行くことに(相対的に)長けている人,長けていない人がいるように,(相対的に)長けている国,長けていない国というのが(集計的には)あらわれて来ます。

そうすると,世界全体でどれだけの量を獲り,どの国・人・船(・会社)が優先的に獲りに行くのかという優先順位を決めることで,その決められた量に達するまで技術の長けた順に獲りに行き,残りは漁業に参入しないことで効率的な獲り方ができる事になります。

そして,そのことを市場の力を借りて実現するのが「譲渡・売買可能な漁獲枠(ITQ)」と呼ばれるものであり,ITQが導入されることであまり技術に優れない人・船などはその枠を売る方が儲かり,その枠を買う人・船などは買っても枠を増やした方が儲かるような技術の高い人・船に限られる,という事になります。

その結果,技術の高い所に漁獲枠が集まるようになります。とはいえ,日本では反対論も強くあまりITQの導入は一般的でありません。

それだけでなく,ITQのためには漁獲枠の売買市場の整備が必要で,現状では(EUの一部のような極稀な例を除き)ノルウェーの「船に付いた枠」やニュージーランド内でのITQのように基本的には国内で枠の売買市場を整備し,国際的には事前に(ないし国際間交渉で)取り決めた国毎の枠(TACと言います)を守り,国家間の枠の取り決め後に国をこえての枠の売買はしないという場合が一般的です。

その国がITQを導入するもしないもその国の判断という部分があり,ITQを導入しないという国も少なくありません。このITQでは総枠をきっちり守る部分が崩れると制度そのものが崩壊することから,国をこえての制度設計の難しさがあります。

その他に(資源利用に対する伝統的な財産権の考え方を基にすると)自分で枠を使い資源を獲る場合には資源の獲り過ぎによる被害は自分に来るので或る程度の自制が働く一方,自ら枠を使うのではなく枠を貸し出す・枠を使う人間を雇う位に枠を集めてしまうと,その人には(雇用者報酬があるため)資源管理という意識が希薄になって資源管理という意識が働かなくなるという問題点もあります。

水産物貿易における貿易不均衡が国内の水産業に与える影響と、不均衡を是正するためにはどのような政策が必要か教えてください。

水産物貿易における貿易不均衡が国内の水産業に与える影響と、不均衡を是正するためにはどのような政策が必要か教えてください。

「小川先生による解説」

先に貿易不均衡における一般的な観点とその是正策を見てから,水産物貿易に当てはめましょう。

よく昔の(2011[平成23]年3月の東日本大震災より前の)日本の貿易に関する記載だと,日本は貿易黒字が続いていて,という記載があり,黒字・赤字という用語の持つイメージから貿易赤字は悪いことで貿易黒字はなんら悪いことではない,という発想を持ちがちなのですが,貿易不均衡という概念は貿易黒字・貿易赤字の双方を問題視します。

貿易黒字というのはどこかの国が貿易赤字に陥らないと成立しない事から,長期的に維持できるものでは本来無いからです。

そして,日本は東日本大震災まで少なくとも20年以上は貿易黒字が続いてきたことが知られていたのですが,東日本大震災後は必ずしも貿易黒字とは限らなく,東日本大震災の影響で貿易赤字になった時期もありましたし,(特にコロナ禍から増えてきたとされる,リモート会議を含め外国社製のデジタルなものを大掛かりに使う現在では)日本は貿易赤字になることも少なくありません。

それからこうした貿易不均衡に対する是正策は色々あるのですが,そもそも為替レートが動く変動為替相場制には元々,こうした貿易不均衡に対する自動調整機能が或る程度は備わっています。

貿易黒字ならそれだけ増価(円高)になり,一般的には輸出が減って輸入が増えるため(輸出から輸入を引いた)純輸出は減って貿易黒字が解消されていきます。

貿易赤字ならそれだけ減価(円安)になり,一般的には輸出が増えて輸入が減るため純輸出は増えて貿易赤字が解消されていきます。

近年では(国を越えての資本移動が自由になってきたため)資本,もっと言えば利子率(金利差)などに基づいた為替レートの動き方をする(アセット・アプローチと言います)面も少なくないため,必ずしも貿易収支の不均衡を是正するために為替レートが動くばかりではないのですが,色々な政策協調などを組み合わせることで変動為替相場制の下では貿易不均衡は或る程度解消されていきます。

その意味では,欧米など諸外国との余りにもの金利差をつけられ過ぎるような政策は取らない方が,金利差で為替レートが振り回されて貿易不均衡を是正する機能を損なうことは防げる面も有ります。

もっとも,2023(令和5)年11月時点で手に入る2022(令和4)年時点での日本だと(鉱物性燃料つまり石油や石炭などの化石燃料の輸入の影響が大きいので)貿易赤字のため,(経常収支を度外視して)貿易収支だけ改善したければ円安は寧ろ改善には望ましい訳ですが,経常収支全体でみると経常収支の赤字はまだ年間では回避できていて「海外拠点の売上によって得られた利益の一部を我が国に還元することで稼ぐ」形になっていると言われています。

そして貿易不均衡は「直ちに」解消しなければならないか,と言われれば,短期的には第1次所得収支で稼げているうちはそこまで問題視すべきものではありません。国際援助が無いと支払う手段も無い,とかの状況であれば問題ですが,支払う手段が無くなるまでに基本的には次の輸出に向くものを見つける・開発するということをやれれば「短期的には」問題視すべきものではない面も有ります。

そして,リカードの比較優位は実は国や財の数を増やしてもちゃんと成立することがJones(1961, Review of Economic Studies)及びその関連研究などにより知られていることから⁽²³,どんな(酷い状況になった)国にも長い目で見れば輸出に向く比較優位を持つ財というのは存在します。

それはどんな技術の優れた国にも24時間365日しかないので,その国に向くものを作れるようにするには他の国が他を担う必要があるからです。とはいえ,産業構造や時代背景が変われば輸出すべきものは変わる面は有ります。

例えば将来的に目指さなければならない1つとされる気候中立つまり温室効果ガスのネットゼロの時代には,日本が(例えばEUとのEPA経済連携協定の締結の際にも関心事項つまり輸出したいから関税を外して市場を開けて欲しいと要求した項目に自動車が含まれていたように)これまで重視してきたガソリン車の輸出は必ずしもできるものではありません。⁽²⁴何を輸出できるようにすべきか,という部分は大事な面が有ります。

さて,ここまで水産物貿易に限らない一般的な貿易不均衡に関して確認してきた上で,水産物貿易の貿易不均衡について考えていきます。水産業は世界全体でみると(養殖も含めれば)まだまだ明るい部分の多い産業なのですが,日本ではとりわけ水産業は(漁業も含めて)斜陽産業扱いの面が少なくありません。明るいのは一部だけ,と言っても過言ではありません。

漁業従事者の高齢化が進んでいるのも,そうした斜陽産業と見做されているから,という面が少なくないわけです。

そうした中で日本では水産物は総合的には輸出より輸入が多い輸入大国のため,輸入水産物が多い分だけ国内の漁業者・水産業者はそれだけ水産物の単価が低い状況での操業を余儀なくされる部分があります。

(どの産業も同じと言われそうですが)漁業者からすれば高く売れるにこしたことは無い訳ですが,日本の消費者はとりわけ「良いものをより安く」という視点に慣れ過ぎていて,おまけに日本の消費者における実質所得もあまり上がっていなく寧ろ下がる様子さえあります。⁽²⁵

物価が上がらなかった時代では賃金率も同じように上がることはあまりありませんでしたし,物価が上がってきて賃金率の上がりがそれに追いついていない側面がありますから。

その中で人口が減りゆくことがほぼ確定している日本では市場規模自体も近隣諸国や世界全体と比べると相対的には小さくなって行くことは否めなく,そうしたことを踏まえるとお肉などのタンパク質製品と常に比較されるお魚のように,無きゃないで代わりのものを用意されがちな水産物を「高く買ってくれる」ことを日本の消費者に期待するのはどんどん難しくなっている部分があります。

ところが,先ほど「ブランダー=テイラー・モデル」の説明の中で少しだけ触れた,漁業経済における世界的な標準的モデルの1つであるクラーク・モデルの知見を借りれば,漁業は再生可能資源の特性を活かしてしっかり資源管理して,レントをしっかり稼ぐ事によって寧ろ世界としては好ましくなる側面があります。

本来なら使える海が広く色々な魚種を有効活用できる日本なら,ちゃんと漁業を稼げる産業にするために,魚価が上がるような資源管理をしっかりやらないといけない面はあります。

日本の漁業で象徴的な道具の1つが「大漁旗」な訳ですが,たくさん獲っても値崩れするだけで売上収入増加には繋がらない面を考えると,高値で魚価を維持できる量になるだけに獲る総量を留めた上で,個々の漁業者に確実に獲ってよいだけの枠を保証する「割当」を設定する方が遥かに望ましい在り方と言えます。

大漁は決して良いことではないのです。ちなみに先に紹介したITQでIはIndividual(個々の),QはQuota(割当)なので「売れる割当」に該当します。

正直に言うと,日本の水産物における貿易不均衡を「水産物の中だけで」完全に是正するのは無理があります。本来水産物の中だけでなく,他のもので輸出できるものを探すべきです。

そこが解消されるときとは,日本が水産物の輸入もろくにできなくなるほど国際的には所得の低い国となり,水産物の輸入が大幅に減ったときです。それが良い状況とはとても言えません。

しかし,現状の輸入水産物がまだ多い国という状況において,水産物の中だけで貿易不均衡を「少しなら」改善する方法はあります。

高く売るには日本国内だけでの販売に留めるのは無理があり,販路の拡大に向けて動くことは大事です。その中でちゃんと「高く」買ってくれる理由がはっきりしている所に販売する,そのための環境整備を整える,というのが大事になります。

例えばEU諸国の中には持続可能性を選択基準の1つに強く持っていて,持続可能な魚・水産物と明確に確認できるなら高く買ってくれる方もいらっしゃいます。

ところがEUでは「輸出できるバナナの形まで決まっている」と揶揄される位に,色々EU市場におろすためのルールは厳しく定められています。

日本の消費者は「国産」と名の付く日本産が1番安全で安心と思っている「国産神話」を持っている人はいまだに少なくありませんが,EUでは(追跡可能性も確りしていないことが多い)日本産の水産物だと必ずしも安全な,という位置付けを持っていません。

そこでHACCPなどの満たすべき衛生基準を含め最低限のルールを満たすための環境整備に加え⁽²⁶,MSCやASCなどの持続可能性を確認できたと「国際的に知られている」水産エコラベルをちゃんと取れるように政策的に支援をする,そのために追跡可能性・持続可能性にしっかり配慮する,ということはできる事の1つになるのではないでしょうか。

そうすれば,ちゃんと高く外で売れるようになることになるので,少しは水産物における貿易不均衡は改善できる様になるのではないでしょうか。

どんどん世界的に,持続可能ではない漁業の在り方というのは高く売る売り先が狭まっていきます。それなら,今のうちにそうした部分をきっちり整備する方が望ましいと言えます。

各自が競争して取りに行き,大漁旗を振って喜んでいてよい状況ではありません。

水産物の供給と国際貿易への気候変動による影響としてどのようなものがありますか?また、これらの変化に適応するための貿易政策にはどのようなものが考えられますか?

水産物の供給と国際貿易への気候変動による影響としてどのようなものがありますか?また、これらの変化に適応するための貿易政策にはどのようなものが考えられますか?

「小川先生による解説」

まず気候変動には地球温暖化による温度上昇の直接的な部分と,異常気象頻発などの側面とを分けて影響を見てあげる必要があります。

温度上昇は気温が上がることによってその土地に適した農作物が変わるように,海水温(水温)共に上がることによって生息し獲れる水産物が変わってくる,というのは十分にあり得てよく知られています。

当然,今までに慣れていない種類(魚種)だとどう扱いどう売るのが望ましいのか分からなくなることから,供給量にも,そして国際貿易にも大きな不安定をもたらすことが言えます。

海での漁業の多くは船が出せるだけの波の高さでないと行けません。異常気象頻発はそれだけ海に船を出せる可能性が減ることを意味します。海が荒れた後なら静かになるまでに時間がかかりますし,お魚の動き方も静かな海と違う可能性があります。

それだけ水産物を獲る機会が減りますので供給も,そして国際貿易も不安定になります。1年中同じ魚種の魚が獲れる訳では無くそれぞれの魚種には「漁期」というものがあり,中にはルールで漁期を縛っている場合も少なくないので,獲りに行けないことで供給量が減ることになります。

貿易政策は基本的には補助金などのように貿易を促すものと関税などのように抑えるものが中心となるので,気候変動の対策になることはなかなかありません。本来は気候変動を抑えられればそれに越したことは無いのですが,気候変動対策は基本的に貿易政策より他のもので対策を取るべきものではあります。

しかし,水産物に限らず,ということであれば一般に,貿易で輸送に使う船などは急がせるとそれだけ(同じ距離を移動するにも)燃料を多く消費することになるので,その分気候変動に悪影響を与えることになります。

例えば低温冷凍保存できるなら(冷凍維持のためのエネルギーの使用度合いにもよるのですが)敢えて急がせない,というのも大事になる,ということは言えます。

急がせない,という部分では総枠だけ決めて各人や各船が確実に獲っても良い分量が決まっていない状態では急いで獲りに行く原因になるので,個別割り当ての形をとって焦って獲りに行かなくても良い環境を整えることは大事です。先ほどのITQも「売れる個別割当」という側面があります。

貿易政策に限らないのであれば,水産物の供給と国際貿易への気候変動における影響の政策として大事になるものとして,色々な水産物の消費方法・市場アクセスへの方法について他の地区でも直ぐに分かるようにまとめてネット公開しておく,という方法が有ります。

相対の部分は難しいでしょうが,例えば普段はA地区でよく獲られていたお魚が遠く離れたB地区で急に獲れるようになった,とかの場合にはB地区ではどう食べて行くのがいい,とかの情報を知らない可能性があります。⁽²⁷

実際にそれでA地区から人を派遣してその美味しい食べ方等を伝えに行った,という事例があるのですが,これは本来調べればすぐ分かる状態であれば悩む必要は無かったように思います。その食べ方等によっても売り方や適した市場などは変わってくる筈です。

参考文献

1)James A. Brander and M. Scott Taylor(1998) ”Open access renewable resources: Trade and trade policy in a two-country model,” Journal of International Economics 44(2), pp.181-209. https://doi.org/10.1016/S0022-1996(97)00029-9

2)James A. Brander and M.Scott Taylor (1997) “International trade between consumer and conservationist countries,” Resource and Environmental Economics, 19(4), pp.267-297. https://doi.org/10.1016/S0928-7655(97)00013-4

3)Takeshi Ogawa (2014) “Consumer Heterogeneity and Gains from Trade in Renewable Resource Trading,” SSRN Working Paper, 2495625. https://dx.doi.org/10.2139/ssrn.2495465

4)Takeshi Ogawa(2017) “Consumer Heterogeneity and Gains from Trade in Renewable Resource Trading: No Management Case,” in 松本昭夫(2017)『経済理論・応用・実証分析の新展開』中央大学出版部第10章 https://www.chuo-u.ac.jp/research/institutes/economic/publication/book_series/book72/ (2023年12月22日アクセス)

5)Boris Worm et al.(2006) “Impacts of Biodiversity Loss on Ocean Ecosystem Services,” Science, 314(5800) pp.787-790. https://doi.org/10.1126/science.1132294

6)Boris Worm et al.(2009) “Rebuilding Global Fisheries,” Science, 325(5940) pp.578-585. https://doi.org/10.1126/science.1173146

7) ここでは「共通認識を持てていない」と言っているだけであることに注意が必要です。例えば北方領土について日本は日本領なので領土問題は存在しない(ロシアに領有権は無い)としていますが,ロシアはロシア領なので領土問題は解決している(日本に領有権は無い),としているため,共通認識は持てていません。「争いがある」というのは「お互いにその主張をすると合意できていない部分が存在している」という意味で記載しています。

8)この部分では南シナ海判決という判決が持つ「島」と「岩」の区分が注目されています。南シナ海判決とは南沙諸島などにおける中国大陸とフィリピン等での争いにおける判決を指します。
https://www.spf.org/oceans/analysis_ja02/b160901.html (2023-12-23アクセス)
この判決は島の定義をかなり厳格にし,幾つかこれまで島と主張されてきたものが岩となる可能性が指摘されていて,例えば韓国の左派系(進歩系)にあたるハンギョレ新聞では2016(平成28)年7月に,この判決に基づけば沖ノ鳥島が島ではなくなる可能性を指摘しています。
https://japan.hani.co.kr/arti/international/24635.html (2023-12-23アクセス)
一方で国際法分野における中部大学の加々美康彦先生はこの判決の前に沖ノ鳥島は「条約が設置した大陸棚限界委員会から延長大陸棚を認める勧告を受けて」いるとして,この判決との整合性が今後問題となりえるとしています。
https://jsil.jp/archives/expert/2016-10 (2023-12-23アクセス)

9)三井住友トラスト・アセットマネジメント(2021)「世界経済メールマガジン2021年12月号」三井住友信託銀行 https://www.smtb.jp/business/dc/web/NL/sk202112.html (2023-12-23アクセス)

10)例えば2022(令和4)年1月の大和総研が出しているエコノミストの小林若葉さんらが出しているレポートには「円安は日本経済にプラスの効果をもたらすが、以前に比べて効果は縮小した」などの記載があり,それまで円安は日本経済にプラスの効果を持っているという手の論調が2021(令和3)年位まで語られていたことが分かります。 https://www.dir.co.jp/report/research/economics/japan/20220124_022798.html (2023-12-23アクセス)

11)日本経済新聞HP 2023年11月20日「製造業の利益、非製造業を15年ぶり逆転 円安や生産回復」 https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUC132LV0T11C23A1000000/ (2023-12-23アクセス)

12)他にもダイエーでは2009(平成21)年に「円高還元セール」が大々的に打たれていました。 https://www.daiei.co.jp/corporate/release_detail/567 (2023-12-23アクセス)

13)経済産業副大臣 牧野聖修(2011)「急激な円高などにより加速する 産業空洞化への対応」2011(平成23)年10月28日 https://www.cao.go.jp/zei-cho/history/2009-2012/gijiroku/zeicho/2011/__icsFiles/afieldfile/2011/10/28/23zen13kai5.pdf (2023-12-23アクセス)
なお,産業空洞化はこの時期に始まったものではなく,プラザ合意後の円高から起きているという声も有り,この時期のものは「、海外市場での需要を取り込むことが主要な目的」という指摘も有ります。 https://www.murc.jp/wp-content/uploads/2012/08/20111006_091221_023009.pdf (2023-12-23アクセス)

14)山本輝(2022)「サケ、タコが食卓から消える!?日本の買い負けを決定付ける『三重苦』の正体」ダイヤモンド https://diamond.jp/articles/-/302605 (2023-12-23アクセス)

15)このことは中国大陸への水産物の輸出が福島原発の「処理水」放出を機にストップがかかった際の議論でも指摘が出たことがあります。 片野歩(2023)「『中国がダメなら他国に売る』が難しい納得理由 EU向けの基準に合わせた工場の設備投資が困難」東洋経済 https://toyokeizai.net/articles/-/698201 (2023-12-23アクセス)

16)例えば水産庁の職員経験のある猪俣秀夫さんはこうした日本型漁業管理を冷静に見てのメリット等も比較するようにしています。 猪俣秀夫(2021)「『日本型』とは何か:日本型漁業管理と日本型経済システムとの比較考察」地域漁業研究 61(2) pp.41-56. https://www.jstage.jst.go.jp/article/jrfs/61/2/61_45/_pdf/-char/en (2023-12-23アクセス)

17)その水産エコラベルが国際的にまともと扱われる基準の1つにGSSI認定という基準があるのですが,MELについては(旧式のものは認定されていなく実際に問題になったものもあったのですが)2019(令和元)年晩秋頃にGSSI認定がされた後,2023(令和5)年9月にはGSSIの新基準でも認定されたと報じられています。 週刊水産新聞(2023)「MEL GSSI新基準に承認」2023年10月2日 https://suisan.jp/article-17991.html (2023-12-23アクセス)

18)例えば山梨県立大学・准教授(当時,現:桜美林大学・教授)の森田玉雪先生らによる研究では,水産エコラベルを付けての単価上昇効果は「日本では」見られないことが当時は知られていた。森田玉雪・馬奈木俊介(2010)「水産エコラベリングの発展可能性―ウェブ調査による需要分析」寳多康弘・馬奈木俊介編著『資源経済学への招待―ケーススタディとしての水産業』第11章(および経済産業研究所ディスカッションペーパー) https://www.rieti.go.jp/jp/publications/summary/10060015.html (2023-12-25アクセス)

19)https://www.topvalu.net/brand/kodawari/csr/mscasc/ (2023-12-23アクセス)

20)例えば大本鈴子(他)編(2016)『国際資源管理認証―エコラベルがつなぐグローバルとローカル』東京大学出版会では第5章にて藤澤裕介「離島漁業と水産資源管理認証(MSC)――隠岐諸島海士町の選択」にて水産エコラベルのMSC認証の取得を実際に検討して諦めた事例が紹介されている。

21)例えば日本周辺で従来獲れていたニホンウナギが国際的に絶滅危惧種(絶滅危惧IB種)に指定される(IUCNでレッドリストに入る)動き(やヨーロッパウナギが指定されるあたり)などと前後して,類似魚種のビカーラという種類の鰻を日本に輸入する動きが出てきている。
https://news.yahoo.co.jp/expert/articles/ddb08299d9a24000d5efa64d75f76f0b5e421976 (2023-12-25アクセス) なお,ビカーラはこの頃,国際的には準絶滅危惧種に指定された。

22)専門用語で「便宜置籍船(FoC)」というのですが,昔からこの問題点は指摘されてきました。
https://blog.goo.ne.jp/maguro119/e/5f23d129803f6d92094537790d8652a5 (2023-12-25アクセス)

23)Ronald W. Jones(1961) “Comparative Advantage and the Theory of Tariffs: A Multi-Country, Multi- Commodity Model,” Review of Economic Studies, 28(3), pp.161-175. https://www.jstor.org/stable/2295945 (2023-12-25アクセス)

24)https://www.mofa.go.jp/mofaj/files/000415752.pdf (2023-12-25アクセス)

25)例えば実質所得の代表的な要素の1つ,実質賃金のコロナ前の30年程度の推移だと次を参照。 https://www.transtructure.com/hrdata/20210727/ (2023-12-25アクセス)
なおこの資料には2022(令和4)年前後以降の物価上昇は反映されていないので更に実質賃金は下がっていると考えられます。

26)実際にEU向け輸出を念頭にしたHACCP対応の国内施設が少ないことはJETROのレポート等でも問題視されています。
https://www.jetro.go.jp/biz/areareports/2023/e4e583e935003b23.html (2023-12-25アクセス)

27)例えば https://newsdig.tbs.co.jp/articles/sbs/839200 を参照(2023-12-25アクセス)

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