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【名古屋市立大学 坂和秀晃 准教授】未来を解析する経済学|コーポレートガバナンスの実証分析から見える課題と特徴

坂和秀晃 准教授
取材にご協力頂いた方

名古屋市立大学大学院/経済学研究科
坂和秀晃 准教授
略歴
1979年生まれ。
大阪大学大学院経済学研究科博士後期課程修了。大阪大学社会経済研究所特任研究員、名古屋市立大学大学院経済学研究科講師、テンプル大学フォックスビジネススクール客員研究員(Visiting Research Scholar)を経て、名古屋市立大学へ就任し現在に至る。

日本のコーポレートガバナンスに関する実証分析、日本のマイクロストラクチャーに関する実証分析の研究を行う。
著書や論文も多数。

目次

経済学の研究において、近年の技術的進歩(例:AIやビッグデータ)がもたらす影響についてどのように考えていますか?

経済学の研究と技術革新による影響

「坂和准教授による解説」

近年のAIやビックデータという技術的進歩は、経済学・経営学分野の研究に大きな影響を与えつつあります。特に、ビックデータを使った研究は、近年少しずつ行われるようになってきています。

海外の研究論文調査によると、保険業界のビックデータを用いた研究は、米国・インド・中国の3カ国の研究者を中心としていて、特に、2012年位から研究論文の数が増加していることを示しています。

保険業は、自動車保険・火災保険など、「何らかのリスクが起きた時の損害」をカバーするための保険商品を提供しています。その意味では、保険会社にとっては、「自動車事故リスクの少なそうな顧客」などが、保険を使わない優良顧客ということになります。

優良顧客を見極めるために、デジタル化されたデータ・プラットフォームで大量の情報を集めるビックデータを用いた保険商品の設計が期待されています。

このような影響は、ビジネスの世界で顕著であり、たとえば、学術研究の世界でも、そのようなビックデータプラットフォームを活用した企業についての様々な分析などが進んでいくと考えています。

コーポレートガバナンスに関する実証分析を行う中で、日本の企業の特徴や課題として最も顕著だと感じる点は何ですか?

コーポレートガバナンスに関する実証分析を行う中で、日本の企業の特徴や課題として最も顕著だと感じる点は何ですか?

「坂和准教授による解説」

日本企業のコーポレートガバナンスに関しては、欧米メディアを中心に批判が多いです。近年の批判としては、2015年の東芝の会計不正の問題などをきっかけに、日本企業のコーポレートガバナンスへの批判が高まったことなどが上げられます。

会計不正前の段階では、企業統治関連の調査では、東芝に関しては、「委員会設置会社」という欧米型の新しいコーポレートガバナンスの仕組みを取り入れた進んだ企業という印象が持たれていたので、更に海外の識者からに対して、日本のコーポレートガバナンスの問題が大きいという認識を与えたように思います。

私が同僚の渡辺先生と共同で行ったJournal of Business Ethics誌に掲載された実証研究(”Accounting Frauds and Main Bank Monitoring in Japanese Corporations”)では、日本の伝統的なコーポレート・ガバナンスメカニズムである銀行関係の強い会社の方が、銀行からの監視(モニタリング)を受け、会計不正を起こしにくいことなどを示しています。

そのように考えると、ただ欧米型のシステムを入れるだけでは、コーポレートガバナンスの問題は解決しないので、企業内の意識を変えていくことが重要かと思います。

マーケット・マイクロストラクチャーに関する研究を通じて、日本の金融市場の特性や動向についての見解はどのように変わってきましたか?

マーケット・マイクロストラクチャーに関する研究を通じて、日本の金融市場の特性や動向についての見解はどのように変わってきましたか?

「坂和准教授による解説」

マーケット・マイクロストラクチャー研究では、日本の金融市場の特性を分析しています。

従来、海外研究者を中心に日本の金融市場は取引銘柄についての情報開示が十分でないため、投資家が十分な情報を得られず歪みがあるといった批判がされていました。

私の最近の共同研究では、たとえば、「Covid-19関連のニュースが、日本の金融市場へどのように影響するか?」を分析しています。結果として、米国市場同様に、「Covid-19関連の企業行動を制限すると考えられるニュース」は、金融市場の株価・流動性などに即時に反応していることを示しています。

その意味では、日本の金融市場についての「情報開示」が不十分という問題は、Covid-19のようなパンデミック期においても、米国市場と大きく変わらない印象があり、徐々に金融市場での「情報開示」の問題が解決しつつある印象があります。

今後の経済学の研究や発展の方向性について、どのような展望を持っていますか?

今後の経済学の研究や発展の方向性について、どのような展望を持っていますか?

「坂和准教授による解説」

今後の経済学分野の研究は、近年の技術的進歩を織り込んだ研究も増えていくと思います。ビックデータの活用は、ビジネスの現場を大きく変えており、その意味では、そのようなビジネスの現場を分析する数多くの新しい研究が出てくることが期待されます。

また、AI活用によって、理論モデルを用いずに、データを用いた予測が可能になりつつあります。このような技術により、金融・ファイナンスの分野での株式市場の予測モデルなどが、理論モデルを用いないような機械学習(Machine Learning)などを用いた分析が増えていく印象があります。

従来型の経済学分野では、先に経済学のモデルを用いて、そのモデルが現実に正しいかを検証する実証研究が中心でしたが、ビックデータ等の活用の広がりにより、新たな流れがあると感じております。

その意味で、経済学分野では従来型の研究とビックデータを用いた研究の併存する状況が続いていくと感じております。

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